神戸地方裁判所 昭和39年(ワ)593号 判決 1967年9月26日
原告
勝野睦生
代理人
米田軍平
外二名
被告
豊国産業株式会社
代理人
平佐三郎
主文
原告勝野睦生が被告豊国産業株式会社の従業員であることを確認する。
被告は原告に対し昭和三九年五月一五日から毎月二〇日に一カ月金一万五一〇〇円の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は第二項に限り仮に執行することができる。
事 実<省略>
理由
一、被告会社は従業員約四〇名を使用し藁工品等の製造販売を営む株式会社であり、原告は昭和三六年三月一日付で被告会社の従業員に採用され経理第一課に勤務していたこと、昭和三九年四月一四日被告会社が原告に対し解雇予告の通告をしたことは当事者間に争いがない。
二、被告は右解雇予告は営業不振による経費節減のための人員整理の必要上社則一四条四号の「会社の都合上止むを得ないとき」に該当するとしてなしたものであるから有効であると主張する、でその効力について判断する。
<証拠>によると被告会社の就業規則たる性質を有する社則一四条四号により原告に対し前示解雇予告の意思表示をしたものであるが、同号によれば被告会社は「会社の都合上止むを得ないとき」には従業員を解雇しうるものと解せられ、経営打開の方策としての人員整理が右事由に該当すること勿論であるから、前示解雇予告が人員整理の必要上なされたかどうかにつき検討するに、<証拠>を総合すると、被告会社では藁工品の他に肥料、雑貨、紙袋、飼料等多種の商品を取扱つているが、右商品の中では藁工品が売上額も圧倒的に多く、また利益率も一番良いこと、しかるに昭和三六年九月一日以降についてみると漸次その取扱量が減少し、したがつてその売上額も減少してきていること(昭和三七年九月一日からの一年間―六六期―で約一一億一一〇〇万円であつたものが、翌年の六七期には約七億八八〇〇万円になつている)、他方、かますに代わる容器として紙袋、麻袋の需要が高まり、漸次その売上順が増加していること、その他飼料、雑貨の売上額も各営業年度毎に飛躍的に増加してきていること、取扱い全商品の売上高でみると、六五期は約二一億五〇〇万円、六六期は約二四億五〇〇〇万円、六七期は約二三億八〇〇〇万円であること、税引前の純制益は六六期が一六二七万円に対して六七期は一七八九万円であることが認められ、以上を総合すると、昭和三九年になつて被告会社の営業成績は前年に比し非常に良くなつたということはできないが、その存立が危ぶまれるほど極端に低下していること、そのために人員整理も止むを得ないと認めるに足る事態に陥入つているということはできず、他にこれを認定するに足る的確な証拠はない。
かえつて、<証拠>を総合すると、被告会社では昭和三九年三月には例年同様従業員三名を新規採用していること、昭和三九年に退職した者は本社関係では三名あるが、いずれも新規採用後の四月から五月にかけてであること、被告会社は旧本社の土地建物(二階建)を約五〇万円で売却し、工費約二三〇〇万円をかけて昭和四〇年一月から現本社(五階建)の建築に着手したことが認められ、これら総合すると昭和三九年三月ごろ、被告会社には人員整理の必要はなかつたものと判断せざるをえない。<証拠>中右認定に反する部分はたやすく採用できない。
以上の認定事実によると被告会社の解雇事由として主張するところは首肯し難いのみならず、右の事実に<証拠>により認められるところの、原告は昭和三九年三月二七日結婚したが、それに先だち同月一九日被告会社に結婚準備のためとの理由で休暇届を出したところ、それ以来被告会社は原告に対し社則一四条四号に基くものとして四月一四日に解雇の予告をするまでの間、何回となく馬本総務課長を通じて会社の方針として結婚したら退職してもらうことになつているのでやめてほしい、この際やめれば五年未満だから自己都合なら四〇%しか支給されない退職金も結婚退職として全額支給され原告にとつても利益だからと執拗に退職を要求したこと、馬本総務課長が同年三月二〇日ごろと二五日ごろ原告方を訪れ、原告の父朝雄に対して原告に勤務上不都合な点はないが会社の方針としてとにかく結婚したらやめてもらうことになつているから原告に退職届を出すよう説得されたいと依頼したこと、原告が被告会社から営業不振のため人員整理の必要が生じ、原告がその対象となつたのだという解雇理由を告げられたのは予告解雇の通知も受けた後の五月に入つてからであり、それ迄何回となくした原告との話合いの際には被告会社は一度も右のような理由を述べたことはなかつたことをかれこれ総合して考察すると、被告会社は女子の労働者である原告の結婚のみを理由にこれを企業から排除する意図を以て社則第一四条第四号を適用して原告に対し本件解雇予告をなしたものと認めるのが相当である。
ところで、従業員自身について生じた事由が前示社則の規定にいう「会社の都合上已むを得ないとき」に当たる場合があること勿論であるが、企業が何ら特段の合理的理由なしに女子の従業員だけを結婚を理由に一方的に解雇することは性別を理由に男女を差別的に取扱うものであつて、公序に反し且つ権利の正当な行使の範囲を逸脱したものとしてその効力を否定さるべきであることにかんがみるときは、女子従業員の結婚は解雇の事由としての前示社則にいう「会社の都合上已むを得ないとき」に該当しないものと解するのが相当である。
そうすると、被告会社は原告に対し社則第一四条第四号にいう「会社の都合上已むを得ないとき」に該当する事実がないのに、その解釈を誤り女子従業員である原告の結婚の事実をとらえ、右第四号に則り前示解雇予告をなしたものであるから、その効力を否定すべきものである。
されば原告は現在なお被告会社の従業員たる地位を保有するものというべきであるところ、被告会社は昭和三九年五月一五日以降前示解雇予告に基き解雇されたものとして原告を従業員として取扱わず、その就業を拒否していることは<証拠>に徴し明かである。
三、そうして、昭和三九年四月ころ原告が一ケ月一万五一〇〇円の平均賃金を受けていたこと、被告会社の賃金支給日は毎月二〇日であること、は当事者間に争がなく、原告本人尋問の結果によると原告は昭和三九年五月一五日以降の賃金の支給をうけていないことが認められるので、被告会社は原告に対し、昭和三九年五月一五日以降毎月二〇日に右賃金を支払う義務を負うことは明らかであるといわなければならない。
よつて、原告の請求はすべて理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条仮執行の宣言につき同一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。(中島孝作 福島敏男 熊谷絢子)